韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)前大統領が在任中に発令した「非常戒厳」措置によって精神的被害を受けたとして、市民らが損害賠償を求める集団訴訟の動きが全国で広がっています。
きっかけとなったのは、ソウル中央地裁が今月25日、尹前大統領に対して、原告104人にそれぞれ10万ウォン(約1万1500円)を支払うよう命じた判決です。裁判所は、市民が日常生活で感じた不安や恐怖と非常戒厳宣言との関連性を一部認めました。
市民団体「改革国民運動本部」などが31日に明らかにしたところによりますと、来週、ソウル中央地方裁判所に対し、1人あたり20万ウォンの慰謝料を請求する訴訟を提起する予定で、すでに1日で600人あまりが参加を申し込んだということです。
韓国南部の釜山(プサン)や蔚山(ウルサン)、慶尚南道(キョンサンナムド)などでも、1人あたり1万ウォンの慰謝料を求める訴訟に対し、2700人以上が参加の意向を示しています。訴訟は来月初めに提起される見通しで、このほかにも同様の訴訟を起こす動きが相次いでいます。
ただ、韓国では集団訴訟制度が証券・金融分野にのみ認められているため、市民は個別に訴訟を提起しなければならず、判例ごとに結果が異なる可能性もあります。
尹前大統領は1審判決を不服として控訴しており、賠償金の仮執行を防ぐため、強制執行停止の申請も行いました。
本人名義の預金資産はおよそ6億9000万ウォンとされており、すべての訴訟で尹前大統領が敗訴した場合、実質的な賠償が難しいとの見方も出ています。
法曹界では、非常戒厳の宣言と市民の精神的被害との因果関係の立証が、2審の争点になるとみています。