[テグム]とは
テグムは長さがおよそ1メートルほどの、竹で作られた横笛です。
日本の尺八を横にして吹いたような形を想像していただけるといいかもしれません。形だけではなく、尺八と同様、合奏曲の演奏前に、他の楽器と音合わせをするための、基本となる音を出すなど、中心的な役割を担っている楽器でもあるんですよ。
[テグム]の演奏方法
テグムを演奏するときは、片一方の端を左肩に当てて、笛が水平になるように持ちます。西洋の透きとおるような音の管楽器に比べて、このテグムは荒々しい感じの音を出すことが特徴です。
[テグム]のつくり
テグムのつくりを見ると、普通の横笛と違い、吹き口と指で押さえる穴の中間部分に、漢字で清いに穴を表す孔という字で清孔、韓国語だと청공(チョンゴン)というテグム特有の穴がひとつ開いています。この穴を葦から取れる薄い膜で塞ぐのですが、そうすると息を吹き込むときに、この膜が震えながら独特な音色を作り出すんです。このチョンゴンによる音がテグムの魅力だと言えるでしょう。
[テグム]の逸話
このテグムに関する逸話を「三国遺事」という歴史書物の中からひとつご紹介しましょう。日本では飛鳥時代にあたる、西暦680年、新羅の神文王の時期の出来事です。ある日、海の真ん中に小さな山が浮かび上がって、新羅に向かって近づいてきたそうです。その山には竹の木があったのですが、不思議なことに、昼間は二本ある竹が、夜になるとぴたりと合わさってひとつになるということなのです。この報告を受けた王が出向いてみると、そこに龍が現れてこう言いました。“片手ではなく、両手を合わせるように使って叩いてこそ音がなるように、竹も重なり合って音が出るもの、これは王様が音で天下を治める兆しです。この竹で楽器を作って吹けば、天下が平和になるでしょう。”この話を聞き、実際に王が竹を切り取って、これを演奏すると、敵の兵たちは退いていき、病は治り、日照りには雨が降り、長雨はやんだといわれています。
このことから、この楽器は漢字で万事の萬(万)に波、そして息の笛と書いて、萬波息笛(まんぱそくてき)、韓国語だと만파식적(マンパシクチョク)と名づけられ、国宝として大切にされたということです。学者たちはこの만파식적(マンパシクチョク)の伝説の楽器がテグムではないかと推測しているそうです。
[三弦三竹]と[ソグム]
韓国ドラマ“善徳女王(ソンドク女王)”の時代から数十年後に統一新羅時代という時代が訪れます。この時代に広く演奏された楽器として伝えられているのが、漢字で三つの弦に三つの竹と書いて、三弦三竹(さんげんさんちく)、韓国語だと삼현삼죽というのですが、つまり三種類の弦楽器と、管楽器という意味です。
ここで三つの弦楽器とは、これまで2回の放送でご紹介したカヤグムとコムンゴ、そして琵琶を表し、三つの管楽器とは今回ご紹介しているテグム、そしてチュングムとソグムです。この三つの管楽器は大きさが違い、テグムのテは漢字で大中小の大、チュングムのチュウは真ん中の中、そしてソグムのソは小という字を当てます。このことからも楽器の大きさがわかりますよね。この中でチュングムは演奏方法が忘れ去られてしまい、テグムとソグムだけが現在に伝わっています。
一番小さいソグムは伝統楽器の中でも、最も高い音を出す楽器で、テグムの特徴であった清孔(チョンゴン)という穴もなく、とても澄んだ音が出るため、鳥の鳴き声に比喩されたりもします。ソグムは現代の創作音楽でも広く愛されている楽器です。
*「アリラン」の語源
岩手県にお住まいの伊藤甲一郎(こういちろう)さんから、第一回目の放送でお聞きいただいた「アリラン」という曲について、ご質問のメールを頂きました。アリランは韓国を代表する音楽で、スポーツ競技の応援にも使われたり、韓国人の心をひとつにまとめる曲と言っても過言ではないと思います。今でも広く愛されていて、最近ではSG워너비という男性グループが現代風にリメイクしたりもしていました。
このアリランの語源については、峠の名前だという説や、女性の名前だという説など、いまだに定説はないんです。みなさんがよくご存知のメロディーはソウル周辺で歌われてきたキョンギアリランというもので、これ以外にも、珍島(チンド)アリラン、密陽(ミリャン)アリランなど、各地にメロディーの違うアリランが存在します。
♬ テグム演奏: 淸聲ジャジンハンイプ(キム・ソンジン)
♬ テグム演奏: オッモリ、トンサルプリ(イ・センガン、ホ・ボンス)
♬ ソグム演奏: ランのための歌(ハン・チュンウン)