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文化

冬の単語で綴るエッセイ集「冬語辞典」

#ソウル・暮らしのおと l 2025-12-19

金曜ステーション

冬という言葉から、どんなイメージが思い浮かぶでしょうか。
文学作品などでは、人間が向き合っている厳しい状況や苦難、悲しみなどを比喩するものとして扱われてきたといいます。また、「経済は冬を迎えた」などの表現はやはり厳しい局面を連想しますね。寒さ、冷たさという象徴から、じっと耐え忍ばなければならない辛い時期、というイメージがもたれがちです。

でも、冬を表す言葉には、それだけではないたくさんの顔があります。そんな冬の言葉を集めた本 「冬語辞典(겨울어사전)」という本を最近読みました。
例えば、韓国には「雪は麦の布団だ(눈은 보리의 이불이다)」ということわざがあります。冬の間に麦畑をすっかり覆い尽くした雪は、冷たい風を防ぎ、乾いた春を乗り越える十分な養分を与えてくれて、やがて豊作をもたらします。青々とした麦の芽を育む布団のような役割の雪。そんなふうに、冬から連想する単語にも、寒さや厳しさだけではないさまざまなストーリーがあります。

そんな冬の単語を148個選び、それぞれに文章を添えたものが、この「冬語辞典」です。
ハングルのカナダラ順に並べられた冬の単語には、どんな言葉があるのか、ちょっと覗いてみましょう。
例えば、「冬眠」「石油ストーブ」「編み物」「忘年会」「厚手の靴下」など、ふつうに思いつく単語もあれば、「告白」「野良猫」「廊下」「ボタン収集家」といった、冬とどんな関連があるのだろう?と興味をそそられる単語もあります。それから、「キムジャン(キムチ漬けをする)」「ムックッ(大根のスープ)」といった韓国ならではの冬を感じる単語もあります。

148個の単語一つひとつに、辞書的な意味とともに、執筆陣それぞれの心に浮かぶ情景を込めた短いエッセイが書かれています。その中からひとつ、紹介してみます。

<ラジオ>
長い冬の夜に誰も一人ぼっちにならないように、ラジオは発明されたのだろうか。
勉強を口実に机に向かってラジオを聴き、眠気がくるとラジオを抱えて寝そべって、頭の上に置いて眠った。ラジオから流れる曲の題名を手帳に書き留め、はがきを書いて送ればDJが読み上げてくれた、そんな時代の話だ。
夜、眠りについた子どもを守ってくれる天使のように、ラジオは途切れることなく世界の話を聞かせてくれた。そしてしきりに問いかけてくる。今日はどんな一日だったのかと。誰があなたを笑顔にしてくれたのかと。暮らしはいつも通りかと。もしも今日つらいことがあったなら、この歌を聞いてさっぱりと忘れてしまいなよ、と。 
Let it snow, let it snow, let it snow. そんな曲を流しながら、いま窓の外に雪が降っています、とDJが話すと、夢の中でも雪が降った。部屋のなかに白い雪が降りしきるのに、変だなとも思わず、少しも寒くもない。そんな甘やかな夢をラジオは見せてくれた。

こんな風に、冬から連想する思い出やストーリーを、冬の単語に載せて紹介しているこの本。じつは今年の初夏に出された前作の「夏語辞典(여름어사전)」がすでにベストセラーになっています。아침달(朝の月)という出版社が、編集者、詩人、そして読者と一緒にこの冬語辞典、夏語辞典を執筆しました。

寒さに身を縮めているとつい見落としてしまう、さりげない冬の単語たち。読んでいると、それぞれの冬の一場面を思い出して、懐かしいようなあたたかい気分になりました。これからますます深まる冬もなんだか楽しみになってくる、そんな一冊でした。

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