ちゃるめらのような管楽器 [テピョンソ]
韓国のことわざの中に”원님 덕에 나발 분다 、殿様のおかげでラッパを吹く”という言葉があります。どんな意味を表す言葉なのか想像がつきますか。ここでいう、殿様とは、地方を治める官吏のことをいうのですが、昔、新しい官吏が村に赴任する時、その行列の後ろを、취타대(チュイタデ)という鼓笛隊のような音楽を演奏する人々がついて歩いたそうです。취타대は上下、黄色の服を着て、帽子には鳥の羽をさすなど、とても目立ったコスチュームでした。つまり、殿様のおかげで、楽器の演奏をしつつ、粋な姿を見せびらかすことができる、といった意味なんですね。취타대の”チュイ”は“吹く”という漢字を書いて、つまり、管楽器を表し、취타대の”タ”は“打つ”という漢字、つまり、打楽器を表しています。この名前からもわかるように、行進しながら演奏しやすい、管楽器と打楽器を中心とした演奏集団だったそうです。けれど、ラッパや太鼓だけでは、メロディーが単調になってしまいますよね。そこで、今回ご紹介する、テピョンソという、ちゃるめらのような管楽器がこの취타대では大活躍したんです。
[テピョンソ]の作り
韓国の管楽器の多くは、竹を切り取って作られているのですが、このテピョンソは胴体部分は、なつめの木のような丈夫な木を30センチほどの大きさに切り取って、これを材料に使っています。そして先端部分には銅で作られた“동팔랑(ドンパルラン)”というものがついているのですが、これはちょうど、じょうごやらっぱのような形をしていて、拡声効果を高める役割をしています。そして口で息を吹き込む部分には、葦で作った“ソ”というダブルリードをさし、これをくわえて演奏します。音がとても大きいわりに、楽器自体は軽く、また音色は、今までご紹介してきた、竹製の楽器のようなやわらかいものではなく、金属性の音が出るところが特徴です。
[テピョンソ]の歴史
テピョンソは今からおよそ1000年ほど前、高麗時代に中国から伝来したのですが、もともとは中央アジアで演奏されていた“スルナイ”という楽器がもとになっているそうです。この“スルナイ”が中国を経て、伝わってくる間に、名前がソナ、スェナイなど変化していき、韓国ではテピョンソを別名、새납(セナプ)と呼んでいるんです。テピョンソの音色はとても軽快だったり、時には物悲しげであったりしますが、音域が狭いため、多様な音楽を演奏するには適さないというのが、難点でした。これに対して、1970年代に北韓で、チャンセナプという、セナプ、いわゆるテピョンソを改良した楽器が登場します。チャンとは長いという漢字を当てることからもわかるように、本体部分を伸ばし、押さえる穴も増やして、より多様な演奏ができるように改良したのです。韓国と北韓では分断以降、お互い別々に伝統音楽を発展させてきましたが、実は日本では北韓の流れをくむ 金剛山歌劇団という演奏団体があるんです。金剛山歌劇団は日本で生まれ育った在日コリアンたちによって結成された総合アーティスト集団で、最近では韓国でも取り上げられ、話題となりました。
力強いテピョンソの音色が南北間の閉ざされた道をも切り開いてくれたらと、願ってやみません。
♬ 演奏 : テチュイタ (国立国楽院)
♬ 演奏 : テピョンソとサムル(チョ・ガビョン)
♬ 演奏 : 熱風(チェ・ヨンドク)